------ 前書き ------今回投稿させていただきました、HIROと言います。このSSはイルファさんと草壁さん、私の中でのTH2真ヒロイン二人の物語です。ジャンルは、ほのぼの/シリアス半々ですね。どちらかと言えばシリアス?一応PS2準拠の草壁さんシナリオの話なのですが……あまり説明するとネタバレになりますので、詳しくは後書きで。では、物語スタートです。フィィィィ……ン----機体が起動する。私は目を覚ました。時刻は六時半。うん、時間通り、今日も調子は良好です。さ〜て、お二人を起こさないように気を付けて、と。私はキッチンへ向かう。もちろん、朝食とお弁当を作るためだ。特に、瑠璃様の分には愛を込めて。私……イルファは、あなたのメイドロボです。『long-cherished・・』「ふぅ、これで良し、と」お弁当作りが終わった。今は梅雨時、その対策もしっかりと……。朝食の下準備も終わりました。さてと、時刻は七時、お二人を起こしに行きましょうか♪トントン軽くノックして、部屋に入る。どうやら、まだ寝ているみたいですね。「瑠璃様、珊瑚様、朝ですよ、起きてください」わざと、小さめの声で呼びかける。……起きませんね。では、仕方ありません。失礼して----「ん…… ……んぅ!?」寝ぼけていた眼がカッと開かれる。瑠璃様が起きたみたいです。「んぅ〜〜プハッ!? な、何しとんねんイルファ!!」「おはようございます、瑠璃様。何って、おはようのちゅー☆ですよ」「それはヤメ言うたやろ!」「ですが、お時間になっても起きてこられなかったですし、一応声もかけましたし……。それに、瑠璃様があんなにかわいい寝顔をしてらっしゃるのが悪いのですよ」「…………。アラーム止めてもうたんか……。しゃあないな……ほら、さんちゃん、朝やで、起きて〜な」「ん〜〜? あ……おはよ〜、瑠璃ちゃん、いっちゃん……」「おはようございます、珊瑚様。では、お二人とも準備が出来ましたらキッチンの方に来て下さいね。朝食を作ってますので」お辞儀をして部屋を出る。ゴメンなさい、瑠璃様。目覚まし時計に昨日細工をしておいたのは私です。明日はどんな策でいきましょうか……? そんな事を考えながら微笑む。大好きな瑠璃様、そして珊瑚様との生活。頑張って、信じて、瑠璃様の信頼を得てつかんだ、思い描いていた生活。でもこれは、きっとあの方の後押しがあったから。ありがとうございます……草壁様。---------------**********---------------四月二十二日「もしもし、長瀬だが……何かあったのかい? イルファ」私は最終起動・行動実験のため、街に出ていた。本当はもう研究所に帰る時刻だったが、ある事を思いついたため、電話をしていた。「長瀬のおじさま……帰るのが少し遅くなっても構いませんか?」「それは別に構わないが、どうかしたのかい?」「学校に、行ってみたいのです」「学校……?」「はい、お二人の学校に……」「……ああ、そういう事かい。だけど、今からでは誰もいないと思うよ」「分かってます。ただ……見てみたいのです」「……そうか、分かったよ。バスの最終便までには帰っておいで。私は多分今日は研究所に泊まる事になると思うから、何かあったらまた連絡しなさい」「ありがとうございます、それでは……」電話を切り、私は学校へ向かった。私は来週、瑠璃様、珊瑚様の元に行く予定になっている。やっと、瑠璃様のお役に立てる……私は喜びで一杯だった。学校に行くのも、ただひと目見てみたかったから……あなたの通う学校を。学校に着いた時、辺りはもう暗くなっていた。でも、私の心は晴れやかだった。ここが瑠璃様が通っている学校……もうすぐ会えるのですね……。少したたずんだ後、学校を背にし帰ろうとした私。しかしその時------強烈な光が背後で起こる。驚き振り向くと、長い黒髪のきれいな女性が倒れていた。「大丈夫ですか?」私はあわててその女性の所へ駆け寄った。「あ……ここは……?」良かった、意識はあるみたいだ。「学校です。どうかしたのですか?」「学校……そうか、また私……」「とにかく、助けを呼びますね」そう言って連絡を取ろうとした私を「ダメです!!」その女性は強く否定した。何か事情があるのだろうか?「あ……すみません……。あの……できれば中庭にベンチがありますので、
そこに連れて行ってもらえませんか……?」大声に少し驚いている私に謝る彼女。そのままにしておく訳にもいかず、私はベンチに連れて行った。この学校の生徒さんなのだろうか……。「すいませんでした……私は草壁優季と言います」ベンチに座り、ホット紅茶を飲んで少し落ち着いたらしい彼女は自己紹介をしてきた。「草壁様……ですね。私はイルファと申します。メイドロボです」挨拶をして、改めて草壁様を見る。大和撫子という表現がピッタリのきれいな人だ。でも、その表情はさっきから曇ったまま。「あの……さしでがましい様ですみませんが、何かあったのですか?」私は、つい聞いてしまった。すると、「いいえ……何も。今日もずっと想っていた人と水族館でデートをしてきたんですよ。明日も、一緒に流星雨を見る約束をしてますし……」どこか作った様なやさしい笑顔だったが、草壁様は私に笑いかけてきた。ずっと想っていた人と……。「それは良かったですね。私も、ずっと想っていた人の所で今度働けるようになったのです。私に光をくれた方の所で……あの方は私の事を覚えていないかもしれないんですけど」ハッとした表情になる草壁様。「それは……運命的ですね」「運命的……?」「はい、とっても、運命的です」運命的……その言葉は私の心に響いた。そうか……私と瑠璃様……運命的……。「ぜひ、頑張って下さいね」そう言って私の手を取り、再びやさしい笑顔を見せる草壁様。でも……やはり、どこかその瞳には翳りがある。それに、私を励ましているこの手も、どこか震えている様に感じた。「……大丈夫ですよ」今度は、私がその手を握り返して言った。「強い想いがあれば……きっと」そう……自分に言い聞かせる様に、誓う様に言った。「……ありがとうございます。私も、頑張りますから」そう言った草壁様の顔からは、さっきまでの曇りが消えていた。やわらかな、それでいて凛とした表情だった。「星が……きれいですね」夜空を見上げた草壁様につられ、私も星を眺める。昨日までの雨が上がったその空は、満天の星を映し出していた。しかしその時、不意に私の手を握っていたその手の感触が消える。「草壁様?」横を向くと、その姿はなかった。まるで、消えたかの様に。辺りを見渡すが、やはりその姿はない。ただ、夜の静寂だけが残っていた。四月二十九日「ごちそうさま……」瑠璃様のために作った夕食……しかし、一口食べただけでやめてしまわれた。「……お口に合いませんでしたか?」「……別に。食べたないから食べてないだけやもん」それだけ言うと、瑠璃様は自分の部屋に帰っていかれた。昨日から続く同じ様な光景……。私は昨日、このマンションにやって来た。夢にまで見た瑠璃様との生活、ずっと願っていた風景。しかし、今は厳しい現実を突きつけられていた。瑠璃様は、私を受け入れてはくれなかった。今日に至っては、まともに目も合わせてもらえていない。ここに来るまで、どんな辛い事があっても耐えられると思っていた。でも、瑠璃様の想像以上の冷たい態度に、私の気持ちは揺らぎかけていた。「いっちゃん……」心配そうな瞳の珊瑚様。本当にやさしい、私の心の生みの親……。「大丈夫です、珊瑚様。私がまだ未熟なだけですから。きっと、誠心誠意尽くせば分かってくれるはずですから」そう言った私に微笑む珊瑚様。だが、その笑顔には力がない。「すいません、少し、夜風に当たってきますね」いたたまれない雰囲気。この場にいる事が出来ず、私は外に出た。珊瑚様は何か言いたそうだったが、特に止める事もなく、寂しそうに私を見ていた。どこをどう歩いたのか、良く覚えていない。気が付くと、私は学校に来ていた。どうしてだろう? ひょっとして、一週間前のあの----「やっぱり、会えました。運命的です!」そんな事を考えていた私に、後ろから聞き覚えのある声がする。振り向くと、そこには草壁様がいた。「お礼を言いたかったんです」草壁様に誘われ、中庭のベンチに移動した私達。彼女の第一声はそれだった。「お礼?」「はい、あの時勇気付けてくれたお礼です」記憶がよみがえる。そう、あの時私も、自身に誓ったのだった。「そして、今度は私が励ます番みたいですね」私の顔を見ながら、草壁様が言ってきた。「あの時、本当は私は私の大事な人の代わりにいなくなるつもりだったんです。……でも、今はそれが間違いだったって思います。二人でずっと一緒にいる事、そうでないと、誰も幸せにはなれなかったって気付いたんです。今日、彼と四度目の運命的出会いを果たして、彼の胸に包まれて、気付いたんです」そして今度は、私の手を握り締め聞いてくる。「悩んで……迷っているのでしょう?」私は無言でうなずくしか出来なかった。そんな私に彼女は力強く、目を見ながら言った。「信じるんです、想いを」想い……。「自分だけではなく、相手もです」相手も……。その言葉に私は思い出した。あの時、私の手を引いて外に連れ出してくれた瑠璃様。そう、あの時のまぶしい輝きを……。そして、例えそれが私に向けられたものではなかったにしろ、感じる事が出来たあなたのやさしさを……。そうでしたね……。「もう、大丈夫ですか?」私の微笑みを見た草壁様が聞いてきた。「はい、大丈夫です」私も笑顔でその答えを返す。もう、言葉は要らなかった。目と目で気持ちが通じ合えていた。それからしばらく二人で星を眺めた後、校門で別れ、互いの道を帰途についた。ふと、私は彼女の方を振り向く。今度は、確かにその姿がそこに在った。---------------**********---------------「はい、二人とも、お弁当です」マンションの出口で、いつものお弁当を渡す。「わざわざ降りてこんでええのに……」「いいえ、きちんと見送るまでが私の仕事ですから」「それとイルファ、今日の弁当は……」「大丈夫です。今日も私の愛がたくさん詰まってます! ちゃんと瑠璃様へのメッセージも描いておきましたから!!」「瑠璃ちゃん、いっちゃん、ラブラブや〜☆」「…………。もうええ、行くで……」日常と化した、こんな風景が心地良い。これも、諦めずに想いを信じてきたから……。私はマンションの中に戻ろうとした。そこに----「ありがとな……イルファ」こちらを向かず、ぶっきらぼうに言った瑠璃様のひと言。私への感謝の言葉。振り向いて、お日さまの様な珊瑚様の笑顔。「運命的……ですね」つい、そんな事をつぶやいた、ある晴れた日の朝だった。------ 後書き ------この物語は、貴明と出会わなかった場合の姫百合シナリオです。同時に草壁さんシナリオを進行させ、それぞれを組み合わせました。ゲーム本編では、貴明が深く係わらなかった場合バッドエンドになる姫百合シナリオですが、私はハッピーに変えるべく、こういった形にしてみました。イルファさんと草壁さん、互いに共通している事は「自分にとって何より大切な想い人がいる」、「その人に再び会う事を心待ちにしていた」という事です。もちろん、その人との幸せな未来を望む事は言うまでもなく。そこで、お互いの想いを補完しあう事で危機を乗り越えてもらおうと考えました。前書きにも述べた通り、この二人は私のベストキャラです。シナリオの日程的に何とか組み合わせる事が出来、今回の話が生まれました。皆様にも気に入っていただけたのなら幸いです。
以上が、当サイトにご投稿頂いた『long-cherished・・』になります。
投稿者のHIRO様、本当にありがとうございます。
管理人として、心からお礼申し上げます。
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