「へぇ、じゃあ草壁さんの家は近所なんだ。通学路も同じみたいだね」
「えっ!? そうなんですか? それは……運命的ですね」
「……これも、運命的なの?」
「はい、とっても運命的です♪」
ちょっと苦笑いする俺に、うれしそうに微笑む草壁さん。
俺達は中庭の通路のベンチに座り、それぞれの事を話しているところだ。
主な話題は小学校の頃の話。
良く一緒に遊んでいた、楽しかったあの頃の話。
髪の左側をちょこっと結んだ、カワイイ姿が鮮明に浮かんでくる。
なぜ今まで草壁さんの事を忘れていたのか、不思議なくらいだ。
草壁さん曰く、それは彼女がタイムリープしていた事に関係があるらしい。
まあ、詳しい事は良く分からないんだけどね。
それにしても……そうか、草壁さんの家は近所なのか。
子供の時は家が離れていたから、一緒に遊んだのはほとんど学校でだけだったけど、
これからは時間がとれそうだな。
よし! それならとりあえず今日----
「あの〜、貴明さん……」
ちょっと考え事をしていた俺に、草壁さんが手を口の所に当て、下から覗き込む様に
少し上目遣いでおずおずと声をかけてきた。
あれ? 確かこのポーズは……。
「ん? どうかしたの?」
「えっと……その……だったら……その……」
モジモジしながら、要領を得ない問いかけを繰り返す。
……やっぱりそうだ、思い出した。
俺に何か頼み事をする時の、草壁さんのクセだ。
小学校の時、おとなしくて一人でいる事が多かった草壁さん。
アメオニをきっかけに親しくなった、俺に見せてくれていたその仕草。
俺以外のクラスの他の人にはあまり見せていなかった、その仕草。
子供心に、どこかそれをうれしく思っていたのを覚えている……懐かしいな。
という事は、俺に何かお願いしたい事があるのか。
あっ……多分、俺と同じ事を考えていたんじゃ……? それなら、俺が先に----
「……あのさ、草壁さん。良かったら、今日一緒に帰らない?」
「えっ!? あ……」
俺の言葉に、目を大きく開き硬直する草壁さん。
あ、あれ? もしかして草壁さんが言いたかった事は違うのかな?
だとすると、えらく先走りなセリフになっちゃったんだけど……。
「……どうして、私の考えている事が分かったのですか? ひょ、ひょっとして、
貴明さんも何か能力を……?」
……深く考えすぎか。
そうだった。草壁さんはこういう子でもあったんだよな。
天然というかなんというか……こんなところも変わってないなぁ……。
俺はまだ驚きの表情でいる草壁さんに、軽くデコピンをした。
「あっ!? え……た、貴明さん?」
「……あのさ、そんな訳ないだろ。話の流れとか、態度とかでバレバレだって」
「そ、そうですか……すみません」
顔を赤くして、身を縮め込ませる草壁さん。
ま、考えてた事が当たっていて良かったよ。
「でも一瞬あせったよ。草壁さんはそういうのはダメなのかな、とか考えたりしたから」
「え……?」
「いや、一緒に帰ったりとかは恥ずかしくて嫌なのかなって----」
「そんな事はありません!!」
うわっ!?
突然すごい勢いで俺の目前に迫ってきた草壁さん。
その顔は真剣そのものだ。
「嫌なんて……そんな事あるはずがありません! 貴明さんの方から誘ってもらえて
本当にうれしいです!!」
「あ、ああ、そうなんだ」
「そうです! 恥ずかしいなんて事あるはずがありません!! だって、貴明さんは
私の将来の----って、あ……」
「…………」
草壁さんの言葉が止まる。
そう、二人の顔は息のかかる距離にあった。
高まっていく、心臓の鼓動。お互いに瞬き一つせずに見つめ合っている。
やがて、強く俺を見つめていた草壁さんの瞳がやさしく潤み……そして、そっと閉じられた。
俺も、ユックリと瞳を閉じる。
どちらからともなく、重なり合う唇。
俺達の、二度目のキス。
最後に言おうとした草壁さんの言葉----それは多分、あの約束の事。
小さかった俺が何気なく口にした、あの約束。
でも、その子供の口約束をずっと草壁さんは信じて……俺の事を助けてくれて……。
ありがとう……そしてゴメン、ずっと思い出せなくて。
今はまだ、ちゃんとした形で応える事は出来ないけど……でも、きっと……。
だから、俺は唇に想いを込めた。
せめて、この気持ちが伝わるように----
この胸の中にある、君を想う愛しい気持ちが伝わるように----
やさしく、そして強く、いつまでも俺達はキスを続けていた……。
そして、一限目の授業終了のチャイムが、その長いキスに終わりを告げる。
俺を見つめる、草壁さんの視線がくすぐったい。
「それじゃ、私は職員室に行きますね」
「うん、また後で」
「あ、貴明さんのクラスは何組なんですか?」
「2−Bだよ」
「そうですか……一緒になれるといいですね」
「多分……そうなるんじゃないのかな? だって、俺達は……」
「そうですね、私達は……」
「「 運命的!! 」」
「なんだろ?」
「はい♪」
お互いに、ニッコリと笑い合う。
きっとこれから、二人の楽しい時間が続いていく。
そう予感させてくれる、四度目の運命的出会いだった……けど……。
「はぁ……」
「?? どうかしました? さっきからため息が多いですけど……。やっぱり、
今日一緒に帰るのは迷惑でしたか?」
「……え? い、いや、そんな事ある訳ないよ! や、草壁さんと一緒の下校なんて、
何か少し緊張しちゃうな〜って」
「そ、そんな、貴明さん……緊張だなんて……。あ、でも、それじゃ……私、明日からは
朝一緒に登校したいと思ってたんですけど……ダメですか?」
「…………え? いやいや、全然おっけーデスよ。一緒に登校、楽しいよね〜……」
「ホントですか! うれしいです!! あ、なんでしたら、朝ゴハンも作りに----」
「いや、そこまでは……」
今は放課後、草壁さんと二人で下校中。
え? 何か俺の様子がおかしいって? あはは……そんな事……あります……。
原因は、五度目の運命的出会い----そう、教室での事。
ええ、やはり俺達は運命で結ばれている様で、同じクラスになりました。
まあ、それは良かったのですが……。
問題は、草壁さんの天然っぷりを量り違えていた事だったのデス。
どうして俺の事を「貴明さん」と呼ぶのかとクラスのみんなに聞かれて(クラスでは
「河野さん」と呼んでくれるかなと思っていた俺も甘かったですが)素直に草壁さんは
『だって、将来私は河野の名字になるので……。だから「貴明さん」なんです♪』と
明るく元気に、笑顔で答えて下さったのデス。
その瞬間、私達はクラス公認『バ』カップルに認定されました。
女子達の生暖かい視線と、男子連中、特に雄二からの冷たい視線が痛かったデス。
……明日からも、続くんだよなぁ……。
「〜〜♪」
そんな俺の悩みを分かっていない草壁さんは、メロディーを口ずさみながら
楽しそうに隣を歩いている。
今日一日そうだったけど、本当にしあわせそうな笑顔だ。
……ま、いっか。頑張りましょうかね。
俺といる事が、その幸せな笑顔につながるというのなら。
俺のために、全てを投げ出そうとしてくれた草壁さん。
俺がしてやれる事はあまりないけれど、出来る事はしてあげたいしな。
そう思わせる力が、その笑顔にはあるし。
「貴明さん、どうかしました?」
見られている事に気付いた草壁さんが、不意に尋ねてくる。
もちろん、その笑顔で。
「あ、ああ……草壁さんの家って、そろそろだよね? 早く見てみたいな〜と思って。
ほ、ほら、早く行こうよ。そこの横断歩道渡って曲がった先でしょ?」
確かに他の女の子みたいに苦手という感じはしないが、やはりそうやって微笑まれると
ドキドキする事は変わりない。っていうか、より緊張する。
照れ隠しもあり、俺は先を急ごうとした。が----
ガシッ!!
急に強く、草壁さんから腕をつかまれる。
「え、何? どうかしたの草壁----!?」
……腕をつかんでいる草壁さんの顔は、悲しみに歪んでいた。
どうしたんだ? 一体何が…………あっ!?
……俺はバカだ! 大バカだ!!
草壁さんの前で一番やってはいけない事をしようとしていた。
あれだけ注意された事だったのに。
……目の前の横断歩道の信号は赤だった……。
「ゴメン……俺……こんな……」
うまく謝罪の言葉が出てこない……後悔の念で一杯すぎて……。
ついうっかりしていたとはいえ、草壁さんの想いを傷つけてしまったんだから……。
「……もう、いいですよ。あまり謝らないで下さい、貴明さん。今度からちゃんと
気を付けてくれればいいですから。ほら、顔を上げて、ね」
うつむいている俺に、やさしく微笑みかける草壁さん。
でも、無理をして作ったその笑顔は今の俺には痛い……。
応える事が出来ず、変わらず沈黙するしか出来ない俺……。
すると、草壁さんは----
「……捕まえたっ」
そう言って手を握り、真剣な眼差しで俺を見つめてきた。
「……貴明さん。約束してもらえませんか?」
「……約束?」
「覚えていますか? 初めて私がアメオニをやった日、貴明さんに言った事……」
「……。『私がオニになったら、ずっと河野くんの事、追いかけていいかな?』だよね」
「……覚えててくれたんですね……ありがとうございます……。そして、私はずっと
貴明さんの事を追いかけて……やっと、捕まえる事が出来たんです……」
草壁さんの瞳から、涙があふれ出す……。
「だから……これからはずっと……私を追いかけて……。そして……約束して下さい……
もう……私の前からいなくならないって……ずっと、側にいるって……」
もう、止まらなかった。次々と涙がこぼれていく。
すがる様に俺を見つめている、その瞳から……。
……そうだ。草壁さんはずっと暗い不安の中にいたんだ。
「ゴメン……なさい……こんな縁起でもない事……。でも、私……」
目に見えない何かに怯える様な瞳……あの時と同じだ。
そう、転校する事を、名前が変わってしまう事を、俺に話していたあの時と……。
今、俺の目の前にいるのは、不安に潰されそうになっていた子供の頃の姿の草壁さんなんだ。
……だったら、俺のするべき事は決まっている。
俺の出来る事で、少しでも草壁さんに元気を与える事をする、それだけだ。
あの約束を胸に、ずっと俺の事を想い続けてくれた草壁さんのために。
だから----
「……捕まえたっ」
俺は、そう言ってそっと草壁さんを抱き締めた。
俺に出来る事----草壁さんの想いに応える事----
「大丈夫。俺はいなくならないから……ずっと側にいるから……。草壁さんも、
俺をずっと追いかけてくれるかな?」
その言葉を聞き、小さくコクンとうなずく草壁さん。
俺を見つめるその瞳に、力が戻ってくる。
そしてもう一つの俺に出来る事----俺の想いを伝える事----
「……好きだよ、優季」
そう、大切なその言葉を伝えた。
本当は、もっと早く伝えなければいけなかった言葉。
形として贈る事の出来る、今の俺の素直な、想いを込めた大切な言葉。
「……あ……あ……」
腕の中の優季が震える。瞳からはいっそうの涙があふれてくる。
でも、その表情に、もう悲しみの色はなかった。
あるのは、輝きに満ちた喜びの光、ただそれだけだ。
「私も……好きです……。ずっと……ずっと……大好きでした……」
胸に顔を埋めてきた優季を、俺はやさしく包み込む。
俺にとって大切な、掛け替えのないその存在を。
これからも、こうやって二人の追いかけっこは続いていくんだろう。
それはきっと、あの約束が果たされた後も。
お互いの想いを伝え合って----そして、新しいお互いに出会い続けて----
そんな幸せな未来を信じながら、いつまでも俺は優季を抱き締めていた。
------ 後書き ------
いかがだったでしょうか。私にとって久々の優季SSでした。
書く事になったキッカケは「好き」という言葉、それをゲーム本編で貴明と優季、
お互いに口にしていない事に気付いたからです。
確かに二人の間に言葉は不要だったのかもしれませんが、少なくとも優季は絶対に
その言葉を望んでいたはずですから。
そしてその言葉を告げるのは男の役目、という事で、貴明に頑張ってもらった訳です。
皆さんはどうお考えでしょうか? 共感していただけたのなら幸いです。
ただ今回のSSには大きな反省点が……優季を悲しませすぎた事、それです!
優季ファンとして自分に怒っています! どういう事だ、俺め!!
ラストはハッピーエンドで締めましたが、過程はもう少し明るい話にしたかったですね。
しつこいですが、反省しまくってます。
それでは後書きまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
ご意見・感想等いただけますと、大変うれしいです。 by HIRO
追伸(というか、ちょっとお知らせ)
このSSを書く事になった本当のキッカケは、私が主に投稿しているサイトにて行われる
TH2夏祭り(8月6日〜)の作品からです。
こちらのサイトでも、TOPページの下の方に応援バナーが張られていますよ〜。
そちらには、『爽やかで甘〜い、ピュア&セクシー優季SS』を掲載予定です(意味不明
こちらの管理人・柴犬様も参加されるこの企画、興味がある方はぜひ来て下さいね。